最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)181号 判決 1952年12月05日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士岩沢誠の上告理由は別紙記載のとおりである。
右上告理由第一点について、
訴訟当事者と身分上その他の密接な関係がある者の証言よりも、そのような関係のない者の証言か、常に一層信用できるという条理若くは実験則は存在しない。それ故右いずれを信用するかは、事実審裁判所が自由な心証に従つて決すべきところである。
されば、原審が論旨摘録のように、証人菅原初太郎、池田三郎の各証言を排斥し、被上告人の実母南セキ、伯父南胖の各証言を採用して事実を認定しても、所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
同第二点について、
現行民事訴訟法二九四条が一種の交互尋問制を採用したものであること及び交互尋問制の長所は挙証者の相手方に与えられたいわゆる反対尋問権の行使により、証言の信憑力が十分吟味される点にあることは、いずれも所論のとおりである。
しかし、証拠を、原則として右のような反対尋問を経たものだけに限り、実質的にこれを経ていない、いわゆる伝聞証言その他の伝聞証拠の証拠能力を制限するか、或はこれらの証拠能力に制限を加えることなく、その証明力如何の判断を、専ら裁判官の自由な心証に委せるかは、反対尋問権の行使につきどの程度まで実質的な保障を与えるかという立法政策の問題であつて、交互尋問制のもとにおいては必ず伝聞証拠の証拠能力を否定しなければならない論理的な必要があるわけではない。それ故わが現行民事訴訟法は、私人間の紛争解決を目的とする民事訴訟法においては、伝聞証言その他の伝聞証拠の採否は、裁判官の自由な心証による判断に委せて差支えないという見解のもとに、この種の証拠能力制限の規定を設けなかつたものと解するのが相当である。
されば原審が所論証人菅原初太郎同池田三郎の証言を排斥し却つて所論証人南胖の伝聞による証言を採つて所論の事実認定の資料としても、何等採証の法則に遵背するものではなく、論旨は結局、原審が適法にした証拠の取捨判断を攻撃するに帰するから、採用し得ない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)